高齢化が進む日本社会で、認知症を身近に感じる場面も多いのではないでしょうか。介護士をはじめとした介護職の方や、ご家族が認知症の方などは、認知症の人とどのように接すれば良いのか、少しでも症状が改善する方法はあるのか、悩まれることもあると思います。
この記事では、認知症をケアする方法や、認知症介護に関わる資格を詳しく紹介していきます。ぜひ参考にしてください。
認知症の基本
まず、押さえておきたい認知症の基本を説明します。(出典:政府広報オンライン)
認知症とは
さまざまな脳の病気によって脳の神経細胞の働きが徐々に低下することで、認知機能も低下し、社会生活に支障をきたした状態のことを、「認知症」といいます。65歳以上の高齢者に発症しやすいとされていますが、「若年性認知症」と呼ばれる65歳未満の認知症も増えています。
年をとればだれでも、思い出したいことがすぐに思い出せなかったり、新しいことを覚えるのが困難になったりしますが、「認知症」はこのような「加齢によるもの忘れ」とは違います。例えば、加齢によるもの忘れでは、朝ごはんのメニューだけを忘れますが、認知症によるもの忘れでは、朝ごはんを食べたこと自体を忘れてしまいます。このように、体験したことの一部を忘れるか全てを忘れるかの違いがあります。
また、また、認知症とよく似た状態(うつ、せん妄)や、認知症の状態を引き起こす体の病気もいろいろあるため(甲状腺機能低下症など)、早期に適切な診断を受けることが大切です。
認知症の原因となる病気
アルツハイマー型認知症
認知症の原因の約67%を占める病気です。長い年月をかけて、アミロイドβ、リン酸タウというタンパク質が脳にたまり認知症を引き起こすと考えられています。もの忘れのような記憶障害から始まることが多いです。他にも、失語(音として聞こえていても話が分かりにくい、物の名前がわからない)や失認(視力は問題ないのに、目で見えた情報を形として把握しづらい)、失行(手足の動きは問題ないのに、今までできていた動作を行えない)などが目立つこともあります。
血管性認知症
認知症の原因の約19%を占め、アルツハイマー型認知症の次に多い病気です。脳梗塞や脳出血といった脳血管障害によって、一部の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり認知症をきたすものをいいます。脳血管障害を起こした場所により症状は異なりますが、まひなどの体の症状を伴うことがあります。
レビー小体型認知症
認知症の原因の約4%を占める病気です。脳にαシヌクレインというタンパク質がたまり、認知症をきたすと考えられています。記憶障害などの認知機能障害が変動しやすいことのほか、ありありとした幻視(実際にはないものが見える)や転びやすい、歩きにくいなどのパーキンソン症状、睡眠中に夢をみて叫んだりするなどの症状を伴うことがあります。どの症状が先に出てくるかはそれぞれです。
前頭側頭型認知症
認知症の原因の約1%を占める病気です。脳の前頭葉と側頭葉が病気の中心として進行していき、同じ行動パターンを繰り返したり、周囲の刺激に反応してしまうなどの行動の変化が目立つ「行動障害型」と言葉の障害が目立つ「言語障害型」があります。
認知症ケア
認知症について理解できたところで、実際に認知症の人をケアするにはどのような心構えが必要か、どんな行動が有効かを説明していきます。(出典:厚生労働省「認知症ケア法ー認知症の理解」)
認知症ケアの基本原則
- ゆったりと、楽しく
- 自由にありのままに
- 「してあげる」ケアから「一緒に過ごす」ケアへ
- 残された力で暮らしの喜びと自信を
- なじんだ環境のもの、ことを大切に
- 地域や自然と触れ合いながら
認知症の人への接し方の基本
「認知症ケアの基本原則」をもとに、実際に認知症の方と接するときのポイントを説明します。
放っておくのではなく見守る
認知症の方に危険がないか、常に観察をしましょう。
プライドを傷つけない
間違った言動を叱ったり、無理に注意・訂正したりせず、あたたかく接しましょう。
わかる言葉で簡潔に話す
高齢の認知症の人でも理解しやすい言葉を使い、一度にたくさんのことを話さず、一つ一つ伝えるようにしましょう。
スキンシップを頻繁に
手を握る・さする、笑顔で見つめるなど、認知症の人に残っている感情面に働きかけるスキンシップを行うようにしましょう。
相手のペースを守る
着替えや食事など、その人が行なっていることについては、急がせると興奮しやすくなるのでゆっくり待ちましょう。
孤独にさせない
できるだけ声かけをし、その人の行動を理解し、買い物などに行く時にはひとりにせず一緒に行動しましょう。
急な環境の変化を避ける
部屋の模様替えなど環境を変える必要がある場合は、急激に変えることを避け、少しずつ変えていって慣らすようにしましょう。
身だしなみを整える
認知症の症状が進むと、着替えや顔を洗うことに無関心になることがあります。この状態では認知症をさらに進行させてしまうため、身だしなみは毎日整えましょう。女性であれば時々お化粧することも効果的です。
コミュニケーションのポイント
身体的特徴に応じたポイント
- 相手が認識しやすい立ち位置
- 安定した体勢(麻痺や筋力低下で立位が不安定な時には座ってもらうなどの配慮)
- はっきりとした声、聞こえやすい大きさ
- 表情に留意する(痛みなどの苦痛がないかを確認しながら)
- 声の調子に気をつけてゆっくりと話す
- 身振りや手振りも織り交ぜながら話す
心理的特徴に応じたポイント
- 価値観や考え方習慣を受容する
- 自尊心を尊重する(幼児語を使ったり、子ども扱いをしない)
- 距離や目線の高さに留意する(不快でない高さや距離)
- 相手の表情を確認しながら話しかける(不快に感じている表情でないかなど)
- 相手のペースに合わせ、気持ちを汲み取る(表情やうなずきなど)
- 相手を置き去りにしない(家族とだけ話をしたり、自分の業務に夢中になって利用者が目に入っていないなど)
生活環境のポイント
- 空間の広さや狭さを確認する(声の大きさや反響に関係)
- 対人距離に留意する(密接距離:とても親しい関係の距離=O~45cm、固体距離:歩み寄りで関係を構築できる距離=45~120cm)
- 温度や明るさ、騒音などに留意する(視覚や聴覚などの感覚器での認識に関係)
- 整理整頓、清潔を保つ(心理的な安心感)
人的環境のポイント
- 服装などの身だしなみや清潔感(視覚での安心感)
- 表情や行動に留意する(あせった表情や落ち着きのない動作をしない)
- 周りの人的環境を確認する(他の職員などが走り回っている状況ではないか)
- 老化や障害に伴う変化を理解し、適切な介護の知識と技術をもつ
認知症介護の資格
ここまで、認知症と認知症ケアについて解説してきました。「より詳しく認知症について学びたい」「介護職として認知症に関わる資格をとっておきたい」という方に、認知症介護の資格にはどのようなものがあるのか、ご紹介します。
認知症ケア専門士
一般社団法人日本認知症ケア学会が認定する更新制の資格で、認知症介護従事者の自己研鑚および生涯学習の機会提供を目的に設けられた資格です。知名度が高い資格のため、評価されやすいですが、介護報酬の加算対象ではないので注意しましょう。
認知症ケア上級専門士
認知症ケア専門士と同じく一般社団法人日本認知症ケア学会が認定する更新制の資格で、ケアチームにおけるリーダーや、地域のアドバイザーとして活躍することが期待できる専門士の養成を目的に創設された認定資格です。
上級専門士には、専門職としての倫理観をよく理解し、認知症ケアの方法を自己の経験や科学的エビデンスに基づき説明することができることが求められます。また、ケアマネジメントやチームアプローチについても同様のことに基づいた実践が求められます。さらに、蓄積した知識や経験を生かし、リーダーや指導者として適切なケアを実施していくとともに、適切なケアやケアマネジメントを新人のケアワーカーや専門士などに指導し、ケアに関する悩みなどを解決するための臨床的支援を行っていくことも求められます。
認知症介助士
認知症介助士の学びでは、認知症を正しく理解し、さまざまな事例から認知症の方への適切な対応方法を知ることができます。職場や地域で認知症の方を支える方々だけでなく、認知症の家族がいる方にもおすすめの資格です。
認知症ライフパートナー
認知症ライフパートナーとは、認知症の人に対して、これまでの生活体験や生き方、価値観を尊重し、日常生活をその人らしく暮らして行けるように、本人や家族に寄り添い、サポートできる人です。
認知症ケアの専門職としては、認知症の人の状況把握ができるスキル、コミュニケ―ション能力、アクティビティ・ケアのプログラムを運営できる力を身につけることが必要になります。ケア現場においても企業においても、正しい判断で業務を遂行することができるようになります。認知症の人の生活を混乱させないためには、最も身近にいる家族やケアに拘わる専門職が、認知症という病気のために起こるさまざまな症状の対応の仕方を理解しているかどうかにかかっています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。この記事では、認知症をケアする方法や、認知症介護に関わる資格を詳しく紹介しました。世界中の誰もが認知症になる可能性を持つ今、こうした知識を持っておくことで、認知症に関わるすべての人の暮らしが良い方向に向かっていくのではないでしょうか。
新しく職場を探したい、という方は「かいごの森」をぜひチェックしてみてください。「かいごの森」ではあなたにピッタリな介護士転職サイトを見つけることができます!