介護業界は、2025年問題と呼ばれる団塊の世代が後期高齢者の年齢に達することを始め、多くの課題に直面しています。厚労省の報道発表資料によれば、特に人材課題が深刻な問題となっています。施設長など現場で指揮を執る方々は、すでに人材不足に直面している場合も多いかもしれません。
このため、本記事では介護業界における人材不足の課題について再度整理し、解決策の一部を紹介していきます。
介護業界における人材不足の現状と背景
まずは、介護業界における人材不足の現状と、その背景から整理していきましょう。
介護業界の人材に関する問題は数だけではない
2016年度時点で介護職の需要人数は約190万人であり、実際の介護職人数は183万人と、約7万人不足していました。
加えて、2025年には団塊の世代が後期高齢者(75歳)に突入するため、介護職の需要はさらに増加し、約245万人が必要とされています。この60万人以上の差分をどのように確保していくかが、介護業界にとって大きな課題です。
また、介護労働者の21.6%が60歳以上と高齢化が進んでおり、介護サービスの質の担保も懸念されています。
介護業界の人材課題の背景は少子高齢化が主な原因
介護業界における人手不足は、日本全体の「少子高齢化」が主な原因となっています。2017年の労働人口は6,530万人であったものの、2040年には約20%も減少し、5,245万人となる見通しです。このため、介護業界を含めた全業界で、採用は難しくなる傾向があります。
さらに介護業界は、高齢者が増加することで需要が急増するという問題を抱えており、他の業界よりも深刻な人材課題を抱えていると言えます。
介護現場における人材課題
次に、全体としての人材不足の要因ともなっている、介護現場における人材課題を具体的に見ていきましょう。
離職率の高さ
介護業界が直面しているもう1つの課題は、人材確保の難しさです。
介護業界は、専門的な知識や技術が必要なため、新たに採用したスタッフに対しても長期間の研修や教育が必要となります。しかし、採用には難航し、人材不足により職員1人あたりの仕事量が増え、残業や過重労働が慢性化しています。このような状況下で、職員が疲弊しやすく、離職率が高くなるという悪循環が生じていると言えます。
採用の難しさ
2つ目の課題は、採用の難しさです。
介護職員の給与に対する取り組みとして、介護職員処遇改善加算が実施されています。介護職員処遇改善加算とは、介護報酬を基に、介護施設において職員の給与を引き上げるための仕組みです。2019年からは、介護報酬に加算される率が引き上げられ、2022年からは介護報酬改定に伴って更なる引き上げが実施される予定です。
また、介護職員の給与だけでなく、待遇面全般の改善が求められています。例えば、介護職員の労働時間の短縮や、ワークライフバランスの改善などが挙げられます。介護職員のストレスや負担を軽減し、働きやすい環境づくりが求められています。
教育制度の未整備
3つ目の課題は、教育制度の未整備です。
介護職員の教育制度を整えることも重要です。高齢者の状態を把握し、適切なケアを提供するためには、介護職員に高い専門性が求められます。そのため、介護職員の教育研修の充実や、現場でのマンツーマン指導などを行うことが必要です。また、ストレスや負担の大きさから介護職員が精神的な問題を抱えることも少なくありませんので、メンタルヘルスケアにも力を入れることが重要です。
介護職における人材不足を解決するためには、多方面からの取り組みが必要です。外国人労働者の受け入れは、一定のスキルを持った人材を補充する方法の1つとして考えられます。ただし、外国人労働者の受け入れには言語や文化の違いなどの問題もありますので、受け入れに際しては適切なサポートや研修を行うことが重要です。
また、資格取得を推進することで、介護職員のキャリアアップを促すことができます。介護職員の資格取得を促す制度や、資格取得に必要な費用の一部を補助する制度を整備することで、働く意欲を高めることができます。
介護業界の人材不足に対する国策
続いて、介護業界の人材不足に対して国がどのような対策を講じているか見てみましょう。
「CHASE」から「LIFE加算」などの科学的介護推進体制加算の取り組み
「LIFE加算」とは、エビデンスに基づいた自立支援・重度化防止に取り組むための介護報酬加算です。具体的には、利用者の機能訓練や栄養指導、認知症対応などのプログラムの提供や、利用者の状態を評価し、介護計画を適宜修正することが求められています。この加算は、利用者1人あたり最大で月40単位まで支払われます。
「LIFE加算」の目的は、利用者の自立支援や、重度化防止に取り組むことによって、入院・介護度合いの進行を防止し、住み慣れた場所での生活を維持することです。加算の対象となるプログラムやサービスは、エビデンスに基づいたものであることが求められ、評価方法も明確に定められています。
この「LIFE加算」によって、介護サービス事業者は、エビデンスに基づいた介護サービスの提供に取り組むことが求められます。また、利用者の状態を評価し、適切な介護計画を立てることによって、利用者の生活の質の向上や、介護サービスの生産性の向上にもつながることが期待されています。
勤務年数10年以上の介護福祉士への処遇改善
施設側では、介護職員の処遇改善に努めるとともに、職場環境の改善や働き方の改革などにも注力することが大切です。具体的には、労働時間の短縮やフレックスタイム制度の導入、育児や介護のための休暇制度の充実、社員同士のコミュニケーションを促進する取り組みなどがあります。これらの施策が従業員のストレス軽減やワークライフバランスの改善につながり、離職率の低下につながることが期待されています。
介護福祉資格取得の推奨
介護福祉士等修学資金貸付制度は、介護福祉士・社会福祉士養成施設に在学中の生徒に対して、国が貸し付ける制度であり、卒業後5年間の介護や相談援助の業務に従事した場合には貸付金が全額免除されます。この制度は、介護業界への就職意欲を高めることで、人材不足の解消を目指すものです。また、この制度によって、貧困層の学生でも介護福祉士・社会福祉士を目指すことができるようになります。介護福祉士等修学資金貸付制度は、奨学金と異なり、返済期間中に適切な業務に従事することで、免除が受けられるという点が大きな特徴です。
外国籍における介護人材の技能実習制度での採用
外国人労働者の受け入れには、言葉の壁や文化の違いなど、様々な課題があることが指摘されています。特に、高齢者とのコミュニケーションが困難であったり、文化的な価値観の違いから生じる問題がある場合があります。そのため、外国人労働者の受け入れにあたっては、適切な教育・研修プログラムの充実や、コミュニケーションの円滑化を図るための支援策が必要不可欠です。
また、外国人労働者の受け入れは、介護業界だけでなく、農業や建設業など他の産業でも受け入れが進んでおり、人手不足解消の一つの方策として期待されています。しかし、適切な労働環境や待遇を整えることが求められると同時に、外国人労働者の人権保護や、適切な労働条件の確保など、社会的な課題も浮き彫りになっています。そのため、外国人労働者の受け入れにあたっては、法的・制度的なフレームワークの整備が必要不可欠とされています。
介護現場における働きやすい労働環境の整備
これまで国の対策をご紹介してきましたが、続いては働きやすい労働環境の整備に向けて介護現場で行える対策をご紹介します。
ユニットケアシステムの導入
ユニットケアは、入居者の生活リズムや性格、好みに合わせた個別ケアを提供できることが特徴であり、また入居者同士の交流が促進されるため孤独感や退屈感を軽減できる可能性があります。さらに、スタッフ同士が密にコミュニケーションを取り合い、意見交換を行いやすい環境ができるため、チームワークが向上することも期待されます。ただし、スタッフの負担を適切に配分しないと、むしろ負担が増してしまう可能性もあるため、運用には十分な配慮が必要です。
ペーパーレス化を始めとした「IT・ICT」技術による業務改善
IT・ICT技術の活用によって、介護職員の負担を軽減することができます。例えば、ペーパーレス化によって書類作成の手間や情報の探し手間を削減し、見守りセンサーや介護ロボットによって介護業務の負担を軽減することができます。また、モバイル端末を導入することで、情報共有を円滑化することもできます。これらの取り組みは、介護職員の負担を軽減するだけでなく、より効率的な業務遂行にもつながります。
業界と現場における介護不足の課題を「ICT」技術によって緩和
介護現場においても、ITやICTの導入が進むことで業務効率化や負担軽減が図れます。しかし、現場スタッフにとっては新しいシステムや端末の操作が不慣れであったり、導入費用がかかることがハードルとなる場合もあります。
そこで、まずはスタッフの意見や要望をしっかりと聞き、使いやすくトレーニングやサポートを提供することが大切です。また、費用面については国や自治体からの助成金制度を活用したり、導入後の効果によってはインセンティブを得ることができる場合もありますので、積極的に情報収集して活用していくことが重要です。
現場スタッフとのコミュニケーションやサポートを十分に行い、ICTの導入によってより良い労働環境の実現を目指していきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。本記事では、介護業界の現状や人手不足を解消するための対策についてご紹介しました。
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