ユマニチュードとは?具体的な5つのステップや4つの柱について詳しく解説

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現在日本で「認知症」患者数は年々増加傾向にあり、とても身近な病となっています。ですが認知症の介護はコミュニケーションなどにおいて、困難な場面も多く介護士にとっても、負担の大きい介護といえます。

そこで近年注目されているのが「ユマニチュード」というフランス発祥のケア技法です。ユマニチュードは「人間らしさを取り戻す」という意味のフランス語で、認知症介護を認知症患者の人間らしい生き方を尊重しながら行うために生まれたケアです。では実際にどのような技法なのでしょうか。今回はユマニチュードの具体的な実践方法やそれによって起こる効果、また注意点などについて詳しく説明します。

ユマニチュードとは?

ユマニチュードは1979年にフランスの体育学教師のイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティによって開発されました。彼らは介護の現場を見た際に、介護士の過剰なサポートを目の当たりにしました。介護士は介護を受ける人の能力値に関わらず、全てをやってあげるという介護を行っていました。これを2人は人間らしさが失われていると考えました。そして介護士と介護を受ける人それぞれがお互いに人間として尊重しあう介護の形が必要であると考えました。そうして生まれたのがユマニチュードです。

参考:humanitude

ユマニチュードの段階別のケア

ユマニチュードは介護を受ける側の人間らしい状態を尊重し、自立能力を奪わないことを目的としていますが、無理をしてまですべて自分で行わせるというケアではありません。そのためユマニチュードには介護を受ける側の状態に合わせて三段階の目標が設定されています。

心身の回復を目指す

ユマニチュードの第一の目標は、心身の回復を目指すことです。これは歩行能力や自立能力がある対象者に、極力それらの能力を奪わないような介護を行うというものです。例えば、介護士が体を拭く際などに、ベットに寝たまま行うというのが一般的ですが、あえて立った状態で行うなどの取り組みをします。

機能を維持する

第一のケアが困難な状態の場合は、機能の維持を目的としたケアを行います。介護を受ける側の今持っている能力を保つために、できることをできる範囲で自分自身で行います。例えば、普段車いすで生活をしている方でも、歩行能力があるのであれば、少しだけでも歩いて行動してみるなど、本人の無理のない範囲で自立した生活を促します。また「できること」は介護士が決めるのではなく、介護を受ける側の本人の判断と意思を尊重して決めます

最期まで寄り添う

すでに歩行や自立を行うことが困難であった場合にも、本人の人間らしい生き方を最大限尊重して最期まで寄り添います。例えばご飯の時間や着替えの時間などを指示して行うのではなく、本人に訪ねて決めるなど、介護を受ける側の意思を尊重した介護を行います。

ユマニチュードの「4つの柱」とは?

ユマニチュードの「4つの柱」とは「あなたを大切に思ってる」という気持ちを行動によって表す技術です。介護の場面においては、介護士の一方的な行動になりがちですが、4つの柱に基づいたケアを行うことで介護を受ける側の人間らしさを尊重し、介護者と介護を受ける側の関係構築にもいい影響を与えます。また、介護の際に大切に思っているという気持ちを伝えるには何か一つの要素を意識するのではなく、「マルチモーダル・ケア」という複数要素を同時に行うコミュニケーション法を用いて介護を行います。

見る

見るという行為は相手に様々なメッセージを伝えます。時には自分の意図していないメッセージが伝わってしまうこともあるため、常に意識しておく必要があります。

ユマニチュードでは3つのポイントを提唱しています。それは、「相手と同じ高さ」で「正面」から「近い距離」で見るということです。「相手と同じ高さ」で見るという行為は自分と相手は対等であるというメッセージを伝えます。逆にベットに寝ている患者を上から見てしまうと、自分が優位であるという威圧感を伝えてしまうため、気を付けなければなりません。「正面」から見るという行為は正直さや誠実さのメッセージを与えることができます。「近い距離」で見るという行為は親しみの感情を伝えることができます。

話す

「話す」際には、大きすぎない穏やかな声で、前向きな言葉を選んで話すことが重要とされています。こうすることで介護を受ける側が居心地がいい状態をつくりだすことができます。また介護の際には介護を受ける側の返事がない場合にも、声をかけ続ける必要があります。その際には「オートフィードバック」という技法を使います。オートフィードバックとは自分が行っている行為を実況するという方法で、相手を人間として尊重しつつケアを行っているという状態を生み出すことができます。

触れる

「触れる」際には「手の広い面積で」「ゆっくりと」「つかまない」ように、というのを意識します。介護の際にはつかんで補助などをしてしまいがちですが、これは相手の自由を奪う行為なので避けなければなりません。また触れる順番に関しても、突然顔や手などの敏感な部位を触れるのではなく、始めは肩や背中などの鈍感な部位を触れ徐々に慣らしていくことが大切です。

立つ

「立つ」という行為は人間らしく生きるためにとても重要な行為です。人間は1日20分立つことで、立つ機能が保たれるとされています。自立できる能力がある場合には、介護の中で立つことや歩くことを積極的に行っていきます。立つことで血液循環を促したり、筋力低下を防ぐなど健康面にもいい影響がたくさんあります。

ケアの5つのステップ

ケアの5つのステップとは、ユマニチュードを用いて実際に介護を行う際の5つの手順のことをいいます。上記で述べた4つの柱を用いながら5つのステップを行うことで、ユマニチュードが実現するとされています。

出会いの準備

まず初めに部屋に入る前にノックをします。これは相手に自分の来訪を知らせ、人と会うための準備をしてもらうためです。もし1度目のノックに返事がなければもう一度ノックしてみましょう。それでも返事がなければ部屋に入るということを伝えて、部屋に入りましょう。具体的には以下のような手順で行います。

  1. 3回ノックする
  2. 3秒待つ
  3. もう一度3回ノックする
  4. 3秒待つ
  5. 反応がない場合は1回ノックしてから入ることを伝えて部屋に入る
  6. ベッドの側行き、足元のベッドボードを1回ノックする

ケアの準備

ケアを行う際には、事前にこれからどのようなケアを行うということを説明し、合意してもらう必要があります。説明を行う際には4つの柱の「見る」と「話す」を意識して行うことで介護を受ける側に、より伝わりやすくなります。もし合意を得られない場合はそのケアを行うのはあきらめましょう。ユマニチュードは相手の意思を尊重した介護法なので、強制的にケアを行うことはできません。

知覚の連結

知覚の連結とは、実際にケアを行う際に4つの柱の「見る」「話す」「触れる」のうちの2つ以上を意識してケアを行うということです。これらを連結させてケアを行うことで、相手の警戒心を解き、スムーズに介護を行うことができます。

感情の固定

ケアが終了した際には、そのケアに対してポジティブな感情を記憶として残すための声掛けを行います。例えば、入浴を行った後に「気持ちよかったですね。」など前向きな声掛けを行うことで、ケアに対して反抗心が生まれるのを防ぐことができます。

再会の約束

お別れの際には必ず「また来る」ということを伝え、再会の約束をしましょう。認知症患者の場合、会ったことを忘れてしまうことも多いですが、だからと言ってあきらめるのではなく、今回のケアを良い感情として残してもらえるための取り組みを行いましょう。声掛けだけではなく、手紙などで伝えるのも効果的です。こうすることで、次回のケアをスムーズに行うことができます。

ユマニチュードによって起こる効果

ユマニチュードには介護者と介護対象者の双方に良い効果があります。ユマニチュードにおいては強制的なケアや一方的な介護などを行わないため介護を受ける側はケアに対する敵対意識や恐怖心などが和らぎます。すると認知症の介護に多いケアの拒否や攻撃的な言動などが減り、よりスムーズにケアを行うことができるようになります。そのため結果的に介護士の身体的・精神的負担を軽減することができます。ユマニチュードを取り入れてから、介護士の介護の技術が向上したという研究結果もあります。

ユマニチュードを行う際に気をつけること

ユマニチュードを行う際には気をつけなければならない点がいくつかあります。まず一つ目は時間に余裕をもってケアを行うということです。ユマニチュードは介護士が一方的に行うケアよりも、一つ一つのケアに時間を要します。介護を受ける側のペースにあわせてケアをおこなうために事前に多めに時間を確保しておく必要があります。

無理をさせないというのもユマニチュードにおいて重要なポイントです。ユマニチュードは介護を受ける側の人間らしさを尊重する必要があるので、歩行などの動作的な自立においても、本人の意思や能力に反して行っては逆効果になります。本人のことをよく考えて無理のない範囲でケアを行うことが重要になります。

ユマニチュードは在宅介護にも効果的

ユマニチュードは介護士だけでなく、認知症の家族を持つ家族介護を行う人にも有効です。実際に2021年にこれに関する実験が日本で行われました。実験の内容としては、117組の認知症患者をもつ家族にユマニチュードに関するトレーニングプログラムを3か月受けてもらうというものです。その結果、介護の負担がプログラム前よりも介護負担が軽減されているということが数値的に証明されました。ユマニチュードは難しい技術を必要としなく、少しずつの心がけで実践できるので在宅介護においても取り入れやすいケア技法です。

参考文献:The effect of a multimodal comprehensive care methodology for family caregivers of people with dementia | Masaki Kobayashi and Miwako Honda

まとめ

今回は「ユマニチュード」というケア技法をご紹介しました。

ユマニチュードの4つの柱と5つのステップを学び、これらを意識して介護を行うことで介護士と介護を受ける側どちらもの負担を減らし、よりスムーズにケアを行うことができます。

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この記事の監修者
元サイバーエージェントクリエイティブディレクター:松浦準之助 株式会社SOKKIN 人材副事業責任者

2014年にサイバーエージェントに入社。金融業界を中心に幅広い業界のクリエイティブディレクションに従事。その後、2023年より株式会社SOKKIN でクリエイティブ責任者として従事

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